【20TH つながる魂のうた】CANTUS ANIMAE はじめての委嘱物語

はじめに
4月14日、15日、それから現在、熊本を激しい本震、余震が襲い続けています。
今回の熊本地震にて、被害にあわれている方に、心よりお見舞い申し上げます。
そして、尊い命を失ってしまわれた方の、ご冥福をお祈りいたします。
CANTUS ANIMAEにも、現在熊本に居住している団員や、熊本出身、もしくは九州地方出身の団員が多数在籍しております。
心が休まらない日々が続きますが、東京にいる私たちは、今自分にできることを精一杯やっていくのみ、と思っています。
どうか一日でも早く、九州に平穏な生活が戻りますように。そしてまた、復興した熊本の地で歌える日がきますように。

演奏会まであと3週間?今回はWEB企画!として、団員の「私の初演エピソード」を集めました。
企画の詳細についてはコチラ→20TH演奏会に向けた連載企画のお知らせ
連載第一弾&第二弾につきましては、CAで初演した楽曲について、団員のちずさんと西本さんにご紹介いただきます♪

CANTUS ANIMAE はじめての委嘱物語

文責:ちず

今回は、CANTUS ANIMAE(以下CA)が初めて委嘱作品を依頼したときのことを、当時を振り返りつつ、12年経った今だからこそ言えるエピソードも交えてご紹介します。

■委嘱のきっかけ

「CAでも委嘱作品をやってみたい」という機運高まる中、2002年8月3日「The 5th Concert おわりとはじまり。」の演奏会で堀内貴晃氏作曲「猫祭」を演奏したことがきっかけとなり、堀内先生に作曲を委嘱することになりました。

堀内先生は一時期CAの団員となり、仲間として一緒に楽しく歌いながら(呑みながら)、この合唱団の特徴や弱点、個々の団員についてしっかりとリサーチされていたに違いありません。

CA最初の委嘱作品「薔薇」

2003年、CAは宝塚国際室内合唱コンクールに出場することになりました。録音審査を通過して、ルネサンス・バロック、ロマン派、近現代の3部門で参加。「近現代部門の曲を、堀内先生に作曲してもらおう」ということになり、作曲されたのが木住野恵子さんのテキストを使用した「薔薇」です。

手元の楽譜を見ると、

作曲時期:2003年4月から7月にかけて作曲。2003年7月23日に脱稿。
初演:2003年7月26日

…つまり、完成したのは本番の3日前。3日前です!!

完成といっても、一度に全部が出来上がるのではなく、部分部分で作曲されたところから練習を積み重ねていたのですが、最後の箇所が3日前に出来上がってきたのでした。そしてなぜか、最後に出来たところが一番難しいという「委嘱あるある」の法則!?で団員の危機感はさらに煽られました。

とにかく、歌いこみが足りません。仕事帰りにカラオケボックスにキーボードを持ち込んで練習する団員もいました。本番当日は合わせ練習のため、朝6時からホテルの広い部屋を借りてみんなで練習しました。完成が3日前だろうと、聴く側の人には関係ないので、絶対にいいかげんな演奏はできません。ギリギリまでやれることはやる!!と団員一致団結で頑張ったのは良い思い出です。

このような経緯で、初の委嘱作品「薔薇」が世の中に生み出されました。

■CAでの作曲風景

CAの委嘱作品のために、堀内先生は団員となって一緒に活動した時期がありました。共に団員として歌まみれ・汗まみれ・泥まみれ・酒まみれ(?)の時間を過ごしながら、練習という現場で一緒に関わる中で委嘱作品が生み出されました。

練習の時間に新しく作曲された楽譜が配られ、事前予習をしてくる場合もあれば、初見で歌う場合もあり…実際に鳴っている音を聴いてもらって、楽譜に変更が加えられたり、指示記号などが付け足されたり。このようなやり取りの中で曲が出来上がっていく過程は楽しく、いつもワクワクドキドキ、時には「これ歌えるようになるのか!?」とハラハラしていました。

作曲家と対面しながら、曲の誕生に立ち会える…これが委嘱作品の醍醐味ではないでしょうか。楽譜に書かれた記号1つとっても、「この記号はどういう意図で付けられている?」「ここはどんな音色での響きがほしい?」と質問できるので、作曲家の求める音について直接回答をいただくことができます。これがモーツァルトだと、既に天国の人なので意見を聞くことはできません。現代という時代を共に生きている作曲家だからこそ、今の私たちにふさわしい曲を書いてくださり、生で演奏を聴いていただけるチャンスがあります。

堀内先生と交流を持ち、自分たちがいかに【楽譜に書かれていること】の多くを見落としているかにも気付かされました。作曲家が楽譜に記すことに無意味なものは何一つありません。これはどんな曲にも言えることで、説得力のある演奏をするには楽譜ときちんと向き合うこと、それができているようで案外できていないことを思い知らされました。音楽生活の上で本当に大切なことをたくさんたくさん教えていただきました。

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CAのための合唱曲「みみをすます」

宝塚国際室内合唱コンクール終了後、CAの演奏会でお披露目となる「みみをすます」の作曲が始まります。「みみをすます」は谷川俊太郎さんのテキストを使った曲で、伴奏は打楽器です。

『みみをすます』と聴こえてくる色々な音があらゆる打楽器の音で表現され、時には歌と一緒に盛り上がる場面もあり…と打楽器が添えられることで豊かな演奏効果が加わります。合唱+打楽器伴奏という曲もCAにとっては初めての経験でとても新鮮でした。

2004年全日本合唱コンクールで部分初演、2004年11月28日、「The 7th Concert みみをすます」で全曲初演となりました。そう、確かこのときの全曲初演も完成したのが本番の一週間前。やはり難しいところが後から出来上がってきて、既に出来ていたところにも大幅な変更があり、打楽器との合わせ時間も足りず…。止まらずに全曲通ったのが演奏会当日のゲネプロで歌った1回のみという非常にスリリングな状況下での全曲初演となりました。

■「みみをすます」に隠されたメッセージ

「みみをすます」はCAのために書かれた曲ということで、最初のフレーズに配されている音はCとA(CANTUS ANIMAE略称のCA)だったり、最後の和音は指揮者雨森文也(Fumiya Amamori)の頭文字FとAの音が加わったF durになっている…という仕掛けが施されています(出版譜のまえがきより)。

しかも「みみをすます」作曲中の時期に、何かの雑談で「合唱では完全5度の和音をきちんと嵌めることが重要なんだけど、CAは完全5度が苦手だから、曲中に完全5度を随所に入れて、歌いながら嵌める訓練ができればいいと思った(※すみません、ややうろ覚えです)」という話をされました。ここまでCAという合唱団の特性を理解して、そのうえ弱点克服まで考えて曲を作ってくれているなんて…と驚き、感動したことを今でも覚えています。

■委嘱作品は合唱団の宝物

「みみをすます」は、CAの単独演奏会では三善晃作曲「五つの童画」と並んで演奏回数の多い曲です。
前述の初演から、さらに2005年7月3日「The 8th Concert 歌い継いでいくこと。歌い続けていくこと。Vol.1」、で演奏し、11月には音楽之友社から楽譜が出版されました。

2005年全日本合唱コンクール東京支部大会、そして全国大会でも歌い、委嘱作品を知らない人にも聴いていただける機会に恵まれました。

そして2006年 、郡山市で開催される第10回水と緑の全国音楽祭でも演奏の機会をいただき、このときは堀内先生の指揮で歌いました。2006年5月27日「The 9th Concert 歌い継いでいくこと。歌い続けていくこと。Vol.2」で改訂版の全曲初演を行いました。

部分演奏3回、全曲演奏4回、そんなに歌っていて飽きないのか?と言われそうですが、まったく飽きることなく、毎回が素敵な発見に満ちていました。というのも、この曲は歌い手に「ここの部分を、今度はこんな風に歌ってみたいな」「この歌詞の音色をもうちょっと工夫したいな」と自由に想像を委ねされてくれる良い意味での余地があるからです。

曲中に何度も繰り返される『みみをすます』という言葉は、リズムや音型、フレーズを変えて登場します。次に続く言葉をイメージし、音楽の流れをつなぐためには、どのように歌えば良いのか、常に考えていくことを求められました。

この曲を通して気づいたこと、学んだことがたくさんあり、得られたものが他の合唱曲を歌うときにも応用できるという、至れり尽くせりの作品となりました。委嘱作品に育ててもらったと言っても過言ではありません。堀内先生に委嘱をお願いできたことはCAの大きな財産になりました。

おわりに

もし、今のCAで「みみをすます」を歌うことがあったら。また違う発見に出逢えそう。新しく増えた仲間と鳴らす音は、どんな響きになるだろう。
委嘱作品は完成して演奏して終わりではなく、それから時を変え、場所を変え、歌い手を変えて歌い継がれることによって、より一層磨かれていくものだと思います。

ご興味を持たれた方、ぜひとも「みみをすます」の楽譜を手に取ってみてください。歌詞の下にローマ字表記もあるので、日本人以外の方でもチャレンジできる親切設計の楽譜です!

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CANTUS ANIMAE The 20th Concert
つながる魂のうた
―3人の若手女性作曲家による新作の響演―

日時:2016/5/8(日)
開演:13:30 (開場:13:00)
会場:第一生命ホール 全席自由
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入場料:一般2,500円 高校生以下1,000円

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